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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)788号 判決 1962年3月16日

上告人 加納賢一

被上告人 富山地方法務局長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人北山八郎の上告理由第一、二点について。

論旨は、まづ、本件のごとく、売買の登記について、登記原因を証する書面に、未成年者に対する親権者の同意を証する書面の添付のない場合、また、未成年者が代理人に依つて登記申請するにあたつて、代理人の権限を証する書面に、親権者の同意を証する書面の添付のない場合は、いずれも、不動産登記法四九条二号所定の「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」に該当するものであることを主張する。

しかし、不動産登記法四九条二号にいわゆる「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」とは、原判示のごとく、主として申請がその趣旨自体において法律上許容すべからざること明らかな場合をいうものであつて(大審院昭和六年(ク)一一九号、同年二月六日決定、民集一〇巻一号五〇頁参照)、所論の場合のごときはこれに該らないと解するを相当とする。論旨引用の大審院判例は、売買と同時に登記しなかつた買戻契約に基く買戻権の登記に関するものであつて本件に適切でない。

次に論旨は、かりに右は同法四九条八号の場合であるとしても、異議の申立があつた場合には登記官更は登記の抹消手続を為すべき義務があると主張する。

しかし、登記の申請が同条八号に該当する場合は、登記官吏は、決定をもつて申請を却下すべきことは同条の規定するところであるけれども、かかる申請も受理されて登記が完了した場合においては、登記官吏は職権をもつてこれを抹消することのできないことは同法一四九条の二(改正前)の規定するところである。その法意は、かかる登記手続の形式的違法性の故にその登記を抹消するときは、かかる登記を信頼して取引をした第三者の利益を害することとなり、不動産取引の安全を害するのおそれなしとしないからである。さらに、登記は、実質において、権利関係の実体と合致する以上、申請の手続において、形式的な瑕疵あるからといつて当然に無効となるものでなく、たとえ訴をもつてしてもかゝる登記の抹消を請求することのできないことは、当裁判所判例(昭和二九年(オ)第二七七号、同三一年七月一七日第三小法廷判決、民集一〇巻七号八五六頁、昭和二八年(オ)第一一一号、同三一年七月二七日第二小法廷判決、民集一〇巻八号一一二二頁)の趣旨とするところであり、登記官吏はもとより実体的権利関係の存否について審査の権限をもたないものである(昭和三三年(オ)第一〇六号、同三五年四月二一日第一小法廷判決、民集一四巻六号九六三頁参照)から、既に登記完了の後においては、かかる登記官吏の処分はもはや不動産登記法一五〇条(改正前)以下所定の異議の申立の対象とならないものと解するを相当とする(大正一二年(ク)三七号、同年三月二八日大審院決定、民集二巻四号一八五頁、大正一三年(ク)五一三号、同年一一月一四日大審院決定、民集三巻一一号四九九頁参照)。これと同趣旨に出た原判決は正当であつて、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田八郎 池田克 河村大助 奥野健一 山田作之助)

上告代理人北山八郎の上告理由

一、原審判決によれは判示事実として

(一) 売買登記について不動産登記法第三五条によつて提出することを要する同条第一項第四号の上告人(未成年者)の両親の同意書が提出せられなかつたこと。

(二) 同法同条同項第五号の上告人の両親の同意書が提出せられなかつたことは争がない事実である。

然れば判示理由として(二)の事実については原審判決は両親の同意書を必要としないとしているが誤れり思うに右同意書の提出を要することは同法同条同項の規定するところである。然れば之を提出しないことは不法であると云わなければならない。

然れども判示理由は右同意書を提出しないことは同法第四九条第八号所定の申請書に必要なる書面を添付しない場合であると云うにあれど然らずして右同意書を提出しないことは同法第四九条第二号所定の事件が登記すべきものに非さるときに該当するので同法同条同項の登記官吏が登記の抹消手続をすることを要する場合であると云わなければならない、然るに登記官更がかかる場合に之を看過したるは不法である、然れば上告人は登記の抹消手続を求めるため異議の申立に及びたる次第である。

同意書を提出しないことが不動産登記法第三五条第一項第四号及第五号の違反であつて同法第四九条第二号に違反する不法がある之を肯定する学説としては大審院判事菰淵清雄著改正不動産登記法註解の一一八頁の八に明記してある、判例としては大審院判決録大正七年民事判決録五七〇頁に記載せらるるところである、其要旨は買戻権は売買と同時に買戻の特約を登記するに非ざれば之以て第三者に対抗するを得ざるが故に其後に登記することは第三者に対抗する効力を生せしめんとする登記の目的に副はずしたがつて売買と同時に登記せざりし買戻契約に基く買戻権の登記は不動産登記法第四九条第二号に所謂事件が登記すべきものに非ざるときに該当するを以て其申請を却下すべきものとすとあり之を要するに判決の趣旨はかかる買戻契約書は同法第三五条第一項第二号登記の原因を証する書面に該当しないから提出添付がなかつたこととして却下したものである、然れば本件の同意書の提出を怠こたことは同法第三五条第一項第四号及第五号所定の登記原因に付両親の同意ありたることを証する書面即ち同意書の提出添付がなかつた場合にして判例と同一の事項であるから申請を却下すべきものである。然れば本件の同意書を提出しなかつたことは同法第四九条第二号に所謂事件が登記すべきものに非ざるときに該当ししたがつて同法第一四九条の二の登記官吏が登記の抹消手続をする義務があるのである。

二、原審判決によれば判示事実として本件を不動産登記法第四九条第八号の申請に付き要する書面を添付せざるときに該当するとして異議の申立によつて登記の抹消手続をなすべき事項でないと説示しているが誤れり、本件は同法同条第二号の申請の場合であるから同意書の提出がなかつたことが申請を却下すべき理由であるから登記官更が自発的にも亦異議の申立のあつた場合に於ても登記の抹消手続なすべきものである。仮りに同法第四九条第八号の申請の場合であつても異議の申立があつた場合には登記官吏は登記の抹消手続をなすべき義務があるのである。

然れば本件の上告人の異議の申立があるに拘わらず、前記抹消手続をなさざることは違法であつて失当であると云わねばならない。

三、以上の如く原審判決は法令違背若しくは理由齟齬のそしりを免れないものと思料する。

以上

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